某月某日、最高顧問と二人でかねてから掲示板で噂の『幾寅』に行ってきました。
掲示板に書かれる内容は、「肉は文句ないものの、従業員の対応にやる気がない。」というものが多い。
最高顧問の事務所で待ち合わせをして、丸ノ内線後楽園駅を降りる。
『幾寅』は駅から歩いて2〜3分のところ、白山通りからちょっと路地に入ったところにあった。
入り口を入ると中はちょっと狭く、4人掛けのテーブルが3つでいっぱい。
午後7時過ぎに行ったのだが、テーブルはすでに満杯。最高顧問と呆然と立ち尽くしていると6人で2つのテーブルを使っていたサラリーマングループが席を詰めて我々にテーブルを譲ってくれた。
噂の(?)若い従業員が2階から降りてきて、テーブルを譲ってくれたグループにさかんに謝ってくれる。噂とは違ってなかなか好感のもてる青年だ。
メニューを我々に渡して、「決まりましたらお呼びください。」といってまたすぐに2階にあがっていってしまった。
メニューを見るとジンギスカンのセットというのはなく、肉や野菜をそれぞれ注文していくというスタイルになっている。
ジンギスカン関係はロース580円、バラ480円、生ラム480円、野菜400円ととてもリーズナブルだ。
メニューを決めて従業員を呼ぶ。2階から風のように降りてくる。
事情を聞くと、この建物が狭いので1階がテーブル席で3階がお座敷、2階が厨房になっているとのこと。今日は店主と二人なので1階と3階の客の注文を全部一手に引き受けて階段を上り下りしているのだそうだ。確かに忙しそうだ。
さらに我々のあとに次々にお客が来るのだが、満席で断るほど。断られたお客さんの中には「あとでまた覗いてみるよ」といって帰っていくグループも。なかなか愛されて繁盛している店のようだ。ジンギスカンの店がこのように愛されているのを見ると嬉しくなる。
注文はとりあえず生ビールとロース、バラ、生ラムを2人前づつ、それに焼野菜を1人前。
「ちょっと頼み過ぎじゃない?」と最高顧問。
最近年のせいか余り量を食べられなくなっている我々にしては、値段が安いので調子に乗って頼みすぎたのを心配する。
「まぁまぁ、これくらいは頑張ろうよ。」と会長。
注文したものが運ばれてくる。ジンギスカン鍋は穴の開いていないオーソドックスなもの。
肉の量はだいたい1人前100グラムといったところだろうか。
ロースとバラは味付きで、生ラムは味付けしていないロース肉?という感じ。
まずはビールで乾杯。
ほどなく鍋もいい感じに熱くなってきた。さっそく肉を乗せる。
まずは鍋に味が付かないうちにと生ラム。
ジュ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ
肉が、焼かれる喜びに打ち震えるかのように歓喜の雄叫びをあげる。
身もだえするように端がめくれ上がり、そんな様子を恥ずかしがるように肉が色を変えていく。
中まで完全に色が変わらないうちに、タレにつけてまずは一口。
美味い!
安い値段にちょっとなめていたところがあったが、羊の香りを十分に残していて美味い。
この値段でこの肉はかなりお得だ。
ただ、肉質は多少硬め。
タレはオーソドックスなジンギスカンのタレでしつこくなくさっぱりと食べられる。
一通り生ラムを食べたあと、次はバラとロースを乗せる。
やや甘めのタレの味だが、市販の味付けジンギスカンほどに甘すぎず、しつこくないのでいくらでも食べられる。
このタレと一緒に野菜を焼くと野菜がまたいっそう美味しい。
あっというまに6人前を平らげてしまった。
さらに肉を追加注文する。さらに他のメニューも食べてみようと「えのきとベーコンのホイル焼き」480円、「ホタテしょうゆ焼き」580円、「カリカリベーコンとほうれん草のサラダ温玉のせ」680円を頼む。
どれも量も十分で美味しい。それにこの値段。この店が人気があるのもうなずける。
けっきょく二人でジンギスカンを11人前も食べてしまった。最近食べ放題がつらくなっている我々にしてみたら、けっこうな量を食べた。なんだか昔に戻ったみたいで嬉しい。
問題の従業員の態度も気持ち良く、けっしてやる気が無さそうな雰囲気ではない。最後に厨房の店長にお会いして、ぜひこの値段で今後も頑張ってくださいと東ジンのステッカーを置いてきた。
「お客さんを断るほどに繁盛してますね。」というと、「今日は金曜日なんでたまたまです。平日はそうでもないんですよ。」と謙遜されていたが、お客さんに愛されているのがよくわかるいい店だ。
我々は爪楊枝をシーハシーハしながら(年をとってくると歯と歯にすき間ができて、肉の食べカスが詰まるんだよね。(悲))大満足で店をあとにした。
中目黒のオシャレ居酒屋「鐵玄」 2004年5月
4月に中目黒に新しくジンギスカン屋ができるという情報が掲示板に書き込まれた。
このところ掲示板にいろいろなジンギスカン情報が書き込まれていて嬉しいし、ホームページを運営していく上で助かっている。
中目黒のジンギスカンといえば「まえだや」が有名だが、それに対抗するような店なのだろうか。
掲示板の情報によると生ラムがメインの、大手の飲食グループが始める店らしい。
5月のある日、会長、最高顧問、中目の近所に住む友人の3人でさっそくその店に行ってみた。
店の名前は『鐡玄』。場所は中目黒駅の改札を出て左に折れ、ガード沿いを学芸大学方面に5分も歩いていったガード下にあった。
佇まいは黒を基調とした昭和をイメージしたレトロな雰囲気。入り口には「成吉思汗と滋養肉料理『鐡玄』」と書かれた白い大きな暖簾がかかっている。「まえだや」のようなジンギスカン専門店ではなく、ジンギスカンメインの居酒屋という佇まいだ。
期待を込めて暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませ」という威勢の良い掛け声。
中は8人くらい座れるカウンターとその奥に4人掛けのテーブル席。靴を脱いで上がるお座敷には4人掛けのテーブルが3つ。お客はほぼ5分の入り。
我々はカウンターの奥のテーブル席に案内された。テーブルにはすでに七輪が置いてある。
メニューを見てその数の多さに驚いた。「たたき・刺し身・前菜」系、メインの「鉄焼き・網焼き」系、「食事・デザート」系など。数えてみるとざっと81種類ものメニューが並んでいる。その他に本日のお勧めとして黒板に5〜6種類の旬のメニュー。
お酒もビール、酎ハイ、日本酒はもとより中国酒、ワイン、カクテルなんてものもある。この間口からすると多すぎはしないかと思うほどの膨大な量だ。
まずは生ビールを注文し、それを待っている間に膨大なメニューから何を頼むか検討する。
ジンギスカン関係では「ジンギスカン盛り」という肉と野菜のセット(¥1260)と「生ラムロース」(¥950)、「生ラムヒレ網焼き」(¥1260)、「生ラム骨付き焼き」(¥1260)、「手造りラムのスモークウィンナー」(¥950)「ラムの生ウィンナー」(¥950)というのがある。他に「旬野菜焼き盛り合わせ」(¥840)、「茸焼き各種盛り合わせ」(¥840)などというものも。
店の佇まいから予想したように、ジンギスカンにしては全体に高めの値段設定だ。
羊の他には「黒毛和牛の最高級霜降り焼き」(¥1890)といった牛肉系、「原種豚メイシャントン岩塩焼き」(¥1260)といった豚系、鴨やキジ、地鶏といった鶏系、変わったところでは「ミンク鯨焼き」(¥1260)などというものもあった。
当然我々は「ジンギスカン盛り」3人前と「生ラム骨付き焼き」「スモークウィンナー」「生ウィンナー」というラムづくしで注文する。その他に黒板に書いてあった「ラムレバ刺し」と「ざるキャベツ」。それに「海ぶどう」も頼んだ。
従業員の若いお兄さんが七輪に炭を入れジンギス鍋を乗せてテキパキと準備してくれる。ジンギス鍋はスリットの入った穴あきタイプ。
ビールと「海ぶどう」、お通しの白菜の漬物で乾杯。
ほどなく「ジンギスカン盛り」登場。
肉はロース肉で色は赤身強く、適度に油が入っていて軟らかそうだ。肉一切れが大きい。一人前100グラム位だろうか。野菜はシンプルで、ざく切りのタマネギと輪切りのネギ、それに獅子唐がちょっと。
ここは最初は従業員が野菜や肉を鍋に乗せてくれるというシステムのようだ。鍋の周りに野菜を乗せ、空いた真ん中に肉を乗せる。
肉を乗せるときに最高顧問が思わず腰を浮かせる。どうやら幸せの音は自分が発したいという習性が思わず腰を浮かせてしまったようだ。
それを察した従業員に「ご自分でやりますか?」と聞かれたが、ここはまずは店のシステムに従ってみようと「いえ、お願いします。」といってぐっと我慢。
大手の飲食チェーンの経営のためか、従業員の態度がテキパキとしていて教育が行き届いている。受け答えもハキハキしていて気持ちがいい。
肉の一切れが大きいのではさみで切り分けてくれる。ただ、個人的にはこのようなパフォーマンスよりは、普通に肉を切り分けてくれてあったほうが好きに食べられていい。
肉に火が通り、タレにつけ、まずは期待を込めて一口。
あれ?
タレに独特の癖がある。
肉自体は噛みしめると肉汁がジュワっと口の中に広がり、適度にのった脂が羊の香りをかすかに感じさせ、それでいて癖がなく軟らかくてとても美味しい。
タレをもう一度なめてみる。香辛料の香りが強い。最高顧問と話し合った結果、どうもカレー粉が入っているんじゃないかという結論に達した。
「そういえば北海道のジンギスカン屋でタレにカレー粉が入っている店があるらしい」と最高顧問。
会長はこのようなタレには初遭遇。
店の人に聞くとやはりカレー粉が足してあるとのこと。
最初は違和感のあったタレだが、食べ進むうちにこの癖のある味になじんでいった。
ただ、これはこれで美味しいが、ジンギスカンを食べ慣れた身としてはカレー粉の入っていない普通のタレも欲しいと思う。
肉自体は癖がなく、ジンギスカン初挑戦の人でも十分に満足できる力を持っているのだから、香辛料の強い(肉の臭みを消すためだろうけど)タレじゃなくても大丈夫。そうすればこの美味しいジンギスカンを2倍楽しめそうだ。お店にはぜひ一考してもらいたい。
ラムのウィンナーはラムの香りはあまりせず、普通の高級ウィンナーという感じ。
ヒレは軟らかいがラムの香り的にはちょっと不満。(これはこの店に限ったことではないが)
骨付きラムは、これは塩だけで食べてみたが絶品の味。ぜひ追加で注文して味わってもらいたい。
ラムレバ刺しは、本当に癖がなく、レバー嫌いの会長も二切れ三切れと食べられてしまった。いつでもあるわけじゃないらしいので、お店に行ってあったらラッキーだと思って注文してみてほしい。
この他にミルクラム(生後半年以内のミルクしか飲んでいない小羊の肉)というのもたまに入ってくるらしいが、我々が行った日は残念ながらなかった。
みんなお腹がいっぱいになって「満足満足!」などと言いつつ爪楊枝をシーハシーハさせているときに、会長がせっかくだからとラムカレー(小)を注文した。
唖然とする皆をしり目に会長は美味そうにカレーを食べる。
ラム肉の入ったカレーだが、いつぞや東ジン北海道支部長のマナブにもらったレトルトのジンギスカンカレー同様、それほど肉にラムの香りはしない。カレー自体は美味しいカレーであった。
予算は食べて飲んで一人4〜5千円見当といった、ジンギスカンではちょっと高級な部類に入る店だが、他のメニューも充実しているので初めての人を連れていくにはちょうどいい店である。ここで羊肉の美味しさに目覚めてくれる人が増えればと思う。
我々は今回も大満足で爪楊枝をくわえ店を後にしたのだった。
中目黒にニューウェーブジンギス店登場! 2004年7月
6月のある日、東ジンに一通のメールが届いた。
内容は、7月に中目黒にジンギスカン専門店をオープンするので、そのパンフレットに東ジンのホームページの一部を引用させてもらいたい、というもの。
店の名前は『くろひつじ』。店舗は形見一郎氏に、パンフレットはタイクーン・グラフィックスにデザインをお願いするとも書いてあった。
会長は今、建築・インテリア関係の雑誌のデザインをしているが、形見一郎氏といえば駒沢の「パワリーキッチン」や青山の「ロータス」といった、とてもお洒落なカフェの店舗デザインで有名な人物。会長のやっている雑誌でも何回も紹介している。タイクーン・グラフィックスは会長の商売敵ともいえる有名なグラフィック・デザイン事務所。
これはただ事ではない!
こんなすごいスタッフを揃えるのだから、どこか大きな飲食チェーンが関係しているのかと思ったのだが、オーナーは札幌の中古車販売の社長で、ジンギスカンは札幌の「ツキサップじんぎすかんクラブ」を手本にしたという。このオーナーはよほどの人脈を持っているのであろう。
興奮した会長は、さっそく最高顧問に「すごいジンギスカン屋ができるぞ!」と形見氏、タイクーンの説明を交えて語ったのだが、幼児雑誌の編集をしている最高顧問にはいまひとつピンとくるものがないようであった。
それにしても中目黒といえば5月に『鐡玄』がオープンしたばかり。『まえだや』と合わせて中目黒に3軒もジンギスカン屋が集中するのはいかがなものかと思いつつ、「ジンギスカンの普及が計れればこれに過ぎる喜びはないので、どうぞ好きなところを使ってください」と返事をしておいた。
最高顧問と二人、なぜこうも中目黒に・・・と頭をひねっているうちに3週間が経ち、『くろひつじ』のオーナーから「7月22日オープンの前に試食会を開くのでぜひ来て欲しい」という招待のメールをいただいた。
「得たりや応」とこたえた我々は、ジンギスカンの食べ歩きが趣味というMさんを誘い3人でオープン前々日の7月20日、勇躍中目黒に乗り込んだ。
場所は中目黒駅の改札を出て山手通りを池尻に向かい、パチンコ屋の次のラーメン屋(次回の日記のメインとなる場所)を右に折れ、目黒川を越えてすぐの場所。
黒塗りの外装に三角屋根。正面入口の上には燦然と輝く『くろひつじ』のロゴ。正面はガラス張りで中の様子がよく見える。
中に入る。
広い。ゆうに50人以上は入れそうだ。
2階建ての倉庫だった建物を吹き抜けにし、内装は白で統一されている。屋根が三角形なので実際の天井の高さは3階建てに相当しそうだ。なるほど形見一郎氏が設計しただけにかなりお洒落なカフェ風に仕上がっている。このようなお洒落なジンギスカン店は初めてだ。
オーナーが迎えてくれたのでいろいろと話を伺った。
●メールに書いてあったようにオーナーは札幌の中古車屋では名の知れた社長で、最初は札幌で何かムーブメントを起こそうと思ったのだが、いろいろ検討した結果、どうせなら東京で何か新しいことがしたいと思った。
●形見さんには札幌でカフェを開こうと思ったときに、その設計の相談をして以来のおつきあいで、タイクーン・グラフィックスもその関係で知りあった。
●どうせなら北海道の美味しいジンギスカンを東京の人に食べさせて、新しいムーブメントにしたかった。
話を聞いているうちにジンギスカンが運ばれてきた。
肉はきれいに脂が入って赤身もきれい。じつに美味しそうだ。
野菜はタマネギともやし、それに獅子唐が彩りを添えている。
この肉は札幌の『ツキサップじんぎすかんクラブ』で出てくる肉を忠実に再現しているのだそうだ。
ニュージーランド産のマトンのみで、ショルダーやモモなど色々な部分を5重に圧着し、4.3ミリの厚さに切っている。圧着技術もオーナー自らしばらく精肉業者に修行に行って教わったもので、プレス機械も同等のものを使っている。
1人前は140g。タレはジンギスカンのタレで有名な「ソラチ」に特注したもの。
驚いた事に鍋も特注の鋳鉄もので、油を使わなくても焦げつかないようになっている。七輪は「幻の七輪」と呼ばれている石川県珠洲市産の天然珪藻土をくりぬいて作る手造りの特注で、ジンギスカン鍋にあうように、高さもテーブルに乗せて食べやすい高さに作ってあるという。(一個1万円以上はするそうだ)
オーナー自慢のジンギスカンを食べてもらうために薬味は置かない。とにかく出す味には絶対の自信を持っているとのこと。
メニューを見ると食べるものは「ジンギスカン1人前(肉・野菜)¥1,000」「追加肉¥800」「追加野菜¥400」「ライス¥200」「キムチ¥300」以上!!
実に潔い。
お酒は生ビールから焼酎、ワイン、日本酒と一通りそろっている。ソフトドリンクも充実。ペリエなんてお洒落なメニューもあって、そちらはまさに外観通りのカフェ風。
潔いが、食べ物ははたしてこのメニューだけでやっていけるのだろうか? という疑問が沸き上がる。
素直な感想をオーナーにぶつけると、オーナー曰く、確かにもっと他のメニューや肉の種類を置くことも考えたが、他の店との差別化や、なによりも自信のあるこのジンギスカン一本で勝負しようと考えたから、とにかく勢いでやっていく。という返事。
特注のタレにつけて肉を食べてみる。タレの味はあっさりとして酸味が程よく、口の中にしつこさが残らない。
肉を噛みしめると圧着した肉は軟らかく肉汁が口の中いっぱいに拡がる。マトンを使っているだけあって、いつも食べている生ラムよりも羊の香りが強く鼻孔を通り抜ける。脂身もいい感じで配合されている。
美味い!
北海道出身の最高顧問とM氏はこの羊の香りに満足している様子。
肉を追加で一皿、もう一皿とどんどん注文していく。
しかし、ここでフッと疑念が湧いてきた。
最近ようやく東京にジンギスカン専門店が増えてきたが、それは羊の香りがマイルドな生ラムだからこそ、東京の人にもその美味しさが受け入れられてきたのではないだろうか。
とすると、より羊の香りが強いこの肉は、はたして東京の人に受け入れてもらえるのだろうか? お洒落な店舗につられて一度は来てみたものの、肉の香りになじめなくてリピーターにならないという事が起こるのではないか。
我々の心配が取り越し苦労であってくれたらいいのだが・・・。
ここの肉が受け入れてもらえれば、ジンギスカンがもっとメジャーになっていくこと間違いなし。
さらに食べているうちに、習慣からか、やっぱり一味などの薬味が欲しくなる。でも、店の流儀に従ってここは我慢我慢。(七味なんかをこっそり持参する人も出てくるかも・・・)
話を伺い、ジンギスカンを食べ、満足して時計を見るとまだこの店に来て1時間ちょっとしか経っていない。知っての通り、ジンギスカンは肉が焼け始めると、焼いては食べ焼いては食べで休んでいる暇が無い。七輪の炭火は火力調節が満足にできないから、一休みしていたら肉や野菜があっという間に焦げてしまう。この店は食べるものがジンギスカンしかないので、食べて飲んでのんびりと、というわけにいかないのだ。長居ができないということがジンギスカン店にとって吉と出るか凶と出るか・・・、これも大きな賭けであろう。
食後にぜひソフトクリームを食べてみてくれ、というオーナーの勧めでソフトクリームもいただいた。コクがあってなかなか美味しい。口の中の脂が洗い流されていくようで食べたあとがさっぱりしている。女性には特に喜ばれそうだ。この食後のソフトクリームも『ツキサップじんぎすかんクラブ』流だとのこと。
この店は店舗はお洒落なカフェ風だが、その中身はこだわりまくった、かなり硬派なジンギスカン店である。いってみれば『羊の皮をかぶった狼』とでも云おうか。今までの東京のジンギスカン店とは全く違うアプローチをコンセプトにしている。ジンギスカンのニューウェーブといってもいいだろう。
お洒落な外観に誘われて、初めてジンギスカンを食べた人たちがその味の虜になって、「ジンギスカンて美味しいよ」という口コミが拡がっていってくれたら、我々の目指す“ジンギスカンで世界征服”の野望が一歩も二歩も近づいてくる。
『くろひつじ』が、今後のジンギスカンの隆盛を担うひとつのエポックメーキングとなってくれたら、と願って我々は店をあとにした。
7月に「くろひつじ」に行ったときに、中目黒にもう一軒ジンギス店ができるらしいという噂を聞いていた。酒屋から聞いた噂ということで、かなりの信憑性がある。店舗は確保してあるが、スタッフが揃わなくてなかなかオープンまでこぎ着かないのだという。
期待して待つことしばし・・・・・
どうやら9月にオープンの運びとなるらしい、という情報が東ジン掲示板に書き込まれた。
中目黒に4店舗目のジンギスカン店。はたして・・・・・・。
9月初頭に東京ジンギス倶楽部北海道支部長が社用で上京するというので、友人一同で歓迎の宴を催すことになった。
当日集まったのは総勢6名。 今まで彼が上京するときには
「東京まで出てきてジンギスカンもねぇべや!」
ということで大抵池袋近辺の飲み屋で宴会をしていたのだが、今回は『くろひつじ』という札幌にはあまりない雰囲気のジンギスカン店ができたので、北海道の人間にも物珍しいだろうとそこを会場に設定した。
夜7時に集合し、しこたまジンギスカンを食べビールを飲んだものの、なにしろここは食べ物メニューがジンギスカンしかない。
9時過ぎには手持ちぶさたとなり、どこか他で二次会突入ということになった。
中目黒の駅に向かって歩いていると最高顧問が突然
「そうだ!! 今日は『久慈清商店』というジンギスカン店のオープンの日だ。二次会はそこにしよう。」
と先頭に立って足早に歩いていく。
友人一同といっても東ジン関係は最高顧問、会長、北海道支部長の3人だけで他の3人は特にジンギスカン好きというわけではない。当然難色を示す者も出たが、最高顧問はおかまいなし。
『久慈清商店』は『くろひつじ』からだと同じ通り沿い。山手通りに面した角にあった。
一階はラーメンとギョウザの店。二階がジンギスカン専門店になっている。店の前は車が2台が止まれるほどのスペースがあり、そこに6人掛けテーブルがひとつ置かれている。そこで4人連れのサラリーマン風の一団が盛り上がっていた。
表の立て看板には「にく、もやし、ニラ、青菜っぱetc.セット¥1,000」「追加にく500えん(現在はラム¥700、マトン¥600)」「追加やさい200えん(現在は各種それぞれ¥200)」と書いてある。これは安い!
最高顧問と二人でさっそく二階の様子を伺いに行くが、開店初日である。案の定、満席。
店内はカウンターのみで、そのカウンターが調理場をコの字型に囲んでいる。12人も座ればいっぱいだろうか。カウンターの中では白衣を着た若い女性が忙しそうに働いていた。
今日は諦めようと帰りかけたとき、店の前のテーブルの一団が「もう帰るから」と、親切にも我々にテーブルを譲ってくれた。
喜ぶ東ジン3人、うなだれる友人3人。
『くろひつじ』で食べてきたばかり、しかも2軒目もジンギスカンなどと想定していなかったので、お腹いっぱい食べてきてしまっていた我々は、とりあえずジンギスカン4人前とビール・・・はお腹が苦しいので酎ハイを注文した。その他に一階の店のメニューも頼めるというので【珍味三点盛】と【中華風冷奴】も注文する。
まずは酎ハイが運ばれてきて、みんなで乾杯。【珍味三点盛】が運ばれてきた。これは「岩のりくらげ」「チャンジャ」「梅水晶」が少しずつ一皿に盛ってあるもので、「梅水晶」がことのほか上手い。
ほどなくジンギスカンが運ばれてきた。火はカセットコンロ(店内はガスコンロ)でスリットなしのジン鍋。ジンギスセットは大きなお皿に野菜も肉もこれでもかというほどに入っている。肉は厚切りのラム。200g近くもあるだろうか。野菜は白菜、キャベツ、もやし、ニラ。
セットが二皿運ばれてきたので、この量では一皿二人前だろうと思っていたのだが、さらにもう二皿やって来た。
この一人前の圧倒的な量に狂喜する東ジン3人、うなだれる友人3人。
さっそく熱くなったジン鍋に肉を乗せる。
幸せの音が喧騒の山手通りのなか、なぜかどこからともなく聞こえてくるく山奥の石清水の清流の音のごとく我々の耳を癒してくれる。
肉は肉厚だけに噛みごたえがあり、奥歯で噛むと肉汁が口いっぱいに拡がる。
その肉汁がかすかな羊の香りを鼻孔内に届け、のどを通ると同時に鼻孔内の羊の香りもフッと消えていく。
『くろひつじ』でマトンを食べてきた直後だけにラム肉は羊の香りが弱いが、癖が無いぶん友人3人には好評だった。
ただ、出てきたタレがこの店オリジナルなのだが、やや甘めで東ジン3人にはちょっとなじめなかった。(後日聞いた話だと辛口もあったらしい。現在はさらに改良が加えられより美味しくなっている。市販のタレも用意されていて、注文のあるお客さんには出しているらしい)
開店初日ということでオーナーがいらしたので話を伺った。
久慈清商店は渋谷、中目黒を中心にビストロやお洒落なカフェバー、居酒屋などを手広く展開している『あぐりグループ』という飲食店舗グループのオーナーが、出身の岩手県盛岡市で昔食べた想いでの味を再現したくて始めたのだそうだ。
まずは懐かしのギョウザ店を始め、ギョウザだったらラーメンということでラーメンメニューを追加。さら に二階に盛岡で子供のころよく食べたジンギスカンも始めた。ジンギスカンは4月に始めたかったのだがスタッフがなかなかそろわなくて9月になってしまったとのこと。
後日スタッフに聞いたところ『久慈清商店』という食べ物屋とは思えないネーミングは、オーナーの実家の屋号を付けたということで、この店への思い入れもひとしおらしい。
セット4人前だけで帰るのは申し訳ないほど満足して我々は店をあとにした。
二階でも一階の料理が注文できるというのも趣向が変わっていておもしろい。(ジンギスカンとギョウザやラーメンが同時に食べられる店なんて他には無いだろうな。これも一種のニューウェーブ?・・・いや、コラボレーション?)
ジンギスカンはもとよりタレにもかなりのこだわりを見せるこの店の今後に期待したい。
新宿に噂の新店を訪ねる その1 2004年9月
大都会「東京」。
中でも「新宿」は歌舞伎町を中心に、人々の欲望を飲み込みつつ猥雑な雰囲気を醸し出す繁華街である。中国マフィアの暗躍、風俗店のしつこい呼び込み、ぼったくりバーの乱立など怖いイメージもあるが、若者も大人も金持ちも貧乏人もそれなりに楽しめる町として、独特の発展を遂げてきた。
しかし、それは新宿でも東口を中心とした街の話。京王百貨店から京王プラザホテルに挟まれた南口はカメラ、電化製品などの量販店が乱立し、小さな飲み屋が雑居ビルにかたまった、サラリーマンの憩いの場として、今も昔も変わらぬ姿でたたずんでいる。
そんな新宿南口に『だるまや』というジンギスカン屋がオープンしたと掲示板に情報が寄せられたのが7月。その後も高感触の意見が多数の人から書き込まれ、会長も最高顧問も大いに気になっていた。
新宿は、もともと会長が学生時代に『大黒屋』という食べ放題・飲み放題の店で初めて最高顧問にジンギスカンを紹介された、いわば「東京ジンギス倶楽部」発祥の地といっても過言ではない土地。しかし、その雑多な雰囲気からジンギスカン屋が多くあってもおかしくないのだが、その『大黒屋』もメニューにジンギスカンがなくなり、我々の知っているかぎり二丁目の『北牧場』(2004年12月店舗移転のため一時閉店中)しか知らない。いわばジンギスカン不毛の地に近い街だった。
それだけに新たにできるこのジンギスカン店への期待も高まる。
『だるまや』という名前からして札幌の名店『だるま』と関係があるだろうか。肉はどうだろう。タレは・・・。
10月のある日、最高顧問と待ち合わせてその『だるまや』に行ってみた。
場所はヨドバシカメラ西口本店とカメラ館をぬけ、時計総合館の角を左に曲がった雑居ビルの二階にあった。看板と提灯が出ているもののちょっと見つけづらい。
一階のフランス料理店の脇にある階段を上っていくと、階段の壁にも『だるまや』の看板が。そして二階に上がった正面に『だるまや』はあった。
店内はカウンターのみで10人も座ればいっぱいになってしまうだろうか。我々が行った時には店内は常連らしい人たちで満席で少し待たされることになった。店の外に席待ちの人用のイスが置いてある。繁盛している様がよくわかる。
10分も待った頃、中にいたお客さんが親切にも無理やり席を詰めてくれて店内に入れた。カウンターの内側に七輪が置いてある。ジンギスカンは野菜とセットで800円。肉の追加が600円。追加もやしと追加野菜が280円になっている。
ホッピーや「たんたかたん」という紫蘇焼酎があったりとお酒もなかなかこだわりをもっているようだ。カツゲンという北海道限定の飲み物もあって北海道出身の最高顧問が懐かしがっていた。サラリーマン相手の店らしく一品料理も各種そろっている。
セットの野菜はもやしと長ねぎ。肉はラムロースで1人前120〜30gもあるだろうか。厚みは約5ミリ。きれいな赤い色に真っ白な脂がモダンアートのような模様を作り、とても美味しそうだ。ジン鍋はスリットの入ったタイプで、炭火の上でいまや遅しと肉が乗せられるのを待っている。
最初は店のマスターが野菜や肉を乗せてくれる。
鍋の周りに野菜を敷き、真ん中に肉を乗せる。
じゅ〜〜〜〜〜〜〜っと店内に響く幸せの音。
とりあえず野菜はほっておいて肉が焼けるのももどかしく、半生のままタレにつけてパクリ。
生ラム特有の癖のない羊の香りが広がり、口の中に肉汁があふれる。
美味い!!
タレは酸味と甘味が程よくミックスされたオーソドックスな味わいのたれ。これはいくらでも食べられそうだ。
生ビールをグビグビ。
プハーーーーッ!!
これこれ。やはりジンギスカンにはビールがよく合う。口いっぱいにひろがった羊の脂を口径内の隅々にまで行きわたったビールがさっぱりと洗い流してくれる。肉もビールも相乗効果でどんどんとすすんでいく。
お腹いっぱい食べたい衝動に駆られるが、実は今日はもう一軒新しいジンギスカン屋を回る予定なので、二人前づつで我慢した。
マスターが洗い物をしているときにコップで手を切ってしまったとかで帰ってしまっていたので、かわりに来た奥さんに話を伺った。
奥さんが北海道出身で、北海道に行った時に食べた『だるま』のジンギスカンの味に感激して、東京で美味しいジンギスカンを食べてもらいたくて始めたそうだ。だから『だるまや』という名前はつけているが『だるま』の味に感激してリスペクトしてつけたので、札幌の店とは直接関係はない。ただ、タレの味は参考にさせてもらったとのこと。
マスターはもともと焼き肉屋だったので、肉に関しては自信を持っている、ということだった。
店をオープンして3ヶ月ですでに多くの固定客を持ち、味も確かなこの『だるまや』。我々が食べている間にもひっきりなしにお客さんが来ては満席で残念そうに帰っていく。店の規模が小さいというのがかえって不満になるくらいの良い店として、今後も繁盛することだろう。