焼き肉を食べに行くカップルは『理無い(わりない)仲』だといいますね。焼き肉の匂いがついても気にならないほど深い仲ということだとか。
昔から「もてたい!」と願いつつその夢がかなったことが無い会長は、積年の恨みもあってカップルには厳しい。電車に乗ればイチャイチャするカップルはいないかとにらみをきかせ、町中でキスをするカップルを発見しようものなら鼻息も荒く駆けつけて「ウーウー」唸りながら周りをグルグルと回って威嚇する。(まるで野犬ですな)
ましてやジンギスカン。
肉に関しては最近臭くない、クセがないという評判を得てきているものの、煙の匂いはまだまだ焼き肉の比ではない。つまり、ジンギスカンを食べに来るカップルは『理無い仲中の理無い仲』ということがいえる。
今までのジンギスカン店は、カウンターだけだとか居酒屋風というようにサラリーマンを対象とした店が多く、あまりカップルを見かけることがなかった。
その風潮に一石を投じてしまったのが中目黒の『くろひつじ』。
お洒落な店内に惹かれたのかカップルの姿が多い。当然会長はくろひつじに行くと気の休まるときがない。しかしよくしたもので、くろひつじはジンギスカン以外にサイドメニューがないから、1時間もすればお腹いっぱいで店を出ることになる。まぁ、そのくらいならカップルが多くても会長にとっては許容範囲。よほどあからさまな痴態を繰り広げるカップルがいないかぎり(そこでそんなことをするカップルはまずいないだろうが)心がざわつくことはない。
多分今年(2005年)一番最初に新規オープンしたジンギスカン専門店であろう四ツ谷荒木町の『赤丸ヂンギス』から、ぜひ一度食べに来て欲しいというメールをもらった。
そこでオープン4日目、さっそく最高顧問と2人で出かけた。
四ツ谷荒木町はかつて花街として栄えただけあって、今でも往時を忍ばせる雰囲気が漂っている。細い路地、肩を寄せ合うように密集する飲み屋。人ひとりがやっと通れるような路地もあり、この一区画はまるで迷路に迷い込んだよう。
住所を頼りに探したものの、我々も迷ってしまった。ウロウロすることしばし。何回かこの界隈に飲みに来たことがあり、多少土地勘のある会長の先導で、なんとか『赤丸ヂンギス』を発見。外観はコンクリートの壁に丸い窓。ちょっと洒落た作りになっている。
客船のドアノブを思わせる丸い金属のノブを押して中に入った。店内もコンクリートの打ちっぱなしで、天井には排気ダクトがむき出しという今どきのスタイル。奥には懐かしのダルマストーブがでんっと置かれている。ストーブのまわりは広くとってあり、七輪が積まれている。テーブルやイスのセンスもよく、お洒落である。4人掛けのテーブルが5つに6〜7人座れる変形のテーブルがひとつ。キャパシティは30人弱といったところ。店の話では店内は潜水艦の中をイメージしているのだとか。カップルや女性同士で来ても違和感がない。「くろひつじ」ほど先鋭的ではないものの、ここも「寅々」同様【おしゃれ系ジンギスカン】に分類される店のようだ。
メニューには「仔羊のたたき」「仔羊の生ウィンナー」からネパールスタイルの激辛サラダ「カチュンバ」、「クリームチーズの奴風」、飲み物ではビール、サワーの定番モノのほかにワイン、シャンパンまである。変わったところでは「ジャムサワー」という見慣れぬサワーも。
さっそく生ビール(¥500)と「仔羊のたたき」(¥1,100)、「akamaruサラダ」(¥750)、「サラダほうれん草と仔羊の生ハムサラダ」(¥850)を注文する。
たたきは1人前7枚で厚さが4〜5ミリ、表面が軽く焙ってある。これにユズ胡椒が薬味として付いていて、ポン酢で食べる。
刺し身やたたきを出すほとんどの店の例にもれず、このたたきも羊の香りがほとんど感じられないほどクセがない。羊好きにはもの足りないが、初心者には美味しい肉という認識を持ってもらえそうだ。
子羊の生ハムサラダ
|
生ラムのネギ塩焼き
|
赤丸特選ロースとテンダーロイン
|
本命のジンギスカン
|
akamaruサラダはドレッシングが秀逸。酸味が程よく、味もしっかりしていて会長好みの味だ。ただ、ちょっと量がもの足りない。
生ハムサラダは生ハムの塩気が強く、ビールによく合う。でも、ラムの生ハムと言われないかぎり、普通の生ハムと思ってしまうかも。
次はいよいよ焼き物。まずは最初に網焼きモノを注文する。(ジンギスカンと網焼きモノの両方あったらまず網焼きを先に注文するのがセオリーでしょうね。)
「生ラムのネギ塩焼き」(¥1,100)は脂肪の少ないロース肉の上にネギ塩が乗せてあって、これを巻いて焼く(ネギ塩を包んだ内側は焼かなくても大丈夫)。ミディアムレアの状態でパクリ。絶妙の塩加減でじつに美味しい。
続いて「赤丸特選ロースの網焼き」(¥1,000)と「テンダーロインの網焼き」(¥1,000)。
特選ロースは脂が乗っていて見るだけで美味しそう。塩コショウで食べたが羊の香りも十分に堪能できる。テンダーロインはいわゆるフィレ肉。脂身が全くなく、羊のうま味は少ないが実に柔らかい。次に「仔羊の生ウィンナー」を網焼きで頂く。これはウィンナー2本とチョリソが1本でセットになっている。これも齧ると肉汁があふれ出て、ビールのおつまみには絶品。
そして待ちに待ったジンギスカン(セットで¥1,100)。肉は肩ロースで野菜はもやし、タマネギ、赤ピーマンが付いてくる。肉が厚い。その厚さ7〜8ミリはあるだろうか。厚めの肉が好きな会長は大喜び。1人前は約100gほど。鍋はスリットの入ったタイプで、七輪は珪藻土をくりぬいた高級品。ダルマストーブで焼いた炭を入れて持ってきてくれる。(夏はどうするんだろう?)
タレはリンゴの擦りおろしがそのまま入っているどろっとして酸味があまり強くないフルーティなタレ。ただ、器に入った量が少ない。(何回か追加で持ってきてもらいました)
十分に熱くなった鍋に羊脂を乗せ、周りに野菜を敷きつめ、真ん中に肉を乗せる。
ジュ〜〜〜〜ッという幸せの音とともに香ばしい香りがあたりに漂う。
さっそく一口と肉を頬ばろうとしたとき、隣の席にカップルが座った。
それを見た瞬間、会長のアドレナリンが急上昇。
カップルにも許せるカップルと許せないカップルがいて、許せるカップルというのが美男と醜女のカップル。美男と美女のカップルは「勝手に仲良くやってなさい」と諦めの境地。会長が許せないのが醜男と美女のカップル。ましてや醜男が金持ちそうだと「金の力で・・・」などという言葉が頭に浮かび、いても立ってもいられない。(悔しい!)
でも、自分が美女を連れていたらおおいに自慢したい(そんなこと一遍もないけど)。
隣にきたカップルはそのどちらにも当てはまらない、一見健全そうなカップルだったが、会長の心は穏やかではない。ましてやこちらは見栄えのしないオヤジ2人である。
男の方がチラッとこちらのテーブルを見ると「あっ、今こっちを馬鹿にしたんじゃないか」、またこちらをチラッと見ると「勝ち誇ってるんだろうな・・・」というひがみ根性が頭を駆け巡り、隣が気になってもう味どころではない(美味しかったけど)。
しかも気がつけばあっちにももう2組カップルが・・・・。(会長逆上)
それでもオーナーの方にお話を伺いました。
オーナーは東京出身で北海道とは縁がなく、食べ物屋も初めてやるのだそうだ。ただ、オーナーのお父さんがオーナーが子供の頃、北海道の出張から帰ってくるとジンギスカンを自宅で作ってくれたので、よく食べていたとのこと。ここのオリジナルのタレも、今は亡きお父さんの味を思い出しながら作った思い出の味。(ちょっと泣かせる話ですね)
肉はオーストラリア産のものを北海道の老舗肉店から買い付けている。ソーセージや生ハムもその肉屋のオリジナルのものを取り寄せているということだった。
「赤丸ヂンギス」の名前はオーナーが赤色が好きなのと「赤丸急上昇」という言葉があるように縁起がよさそうなので付けたそうだ。
女性の好きそうな韓国風辛いスープあり、デザートも6種類のアイスにチョコバナナサンデーなどというものもあり、最後にジャスミンティーを出してくれるところまで、じつに女性の心をとらえた店である。
カップルが多く来るのもうなずける。
また会長の気の休まらない店が登場してしまった。
場所は少々分かりづらいものの、繁盛することは間違いないだろうと確信し、我々は東京ジンギス倶楽部のシールを置いてこの店をあとにしたのだった。
昔、村松友視の「私、プロレスの味方です」というベストセラー本がありましたね。一時は、格闘技好きでもある会長の愛読書でした。
そのタイトルをちょっと借りるなら、「私、タマネギの味方です」。
タマネギは煮てよし、焼いてよし、炒めてよし。水にさらせば生で食べてもよし。
想像してみてください。
タマネギのスライスを炒めて下味を作ったカレーの味の奥深さを。
カツ丼のだし汁を十分に吸い、カツの脇役としてカツ丼を支える、甘くクタッとなったタマネギの美味しさを。
もしも牛丼にタマネギがなかったら…、もしも串カツの豚肉と豚肉の間ににタマネギがなかったら……。考えるだけでも人生が味気ないものになってしまいませんか。
タマネギは料理の脇役として他の素材を引き立てる縁の下の力持ちであり、また、「オニオンスライス」「オニオンリング」など、主役を演じる堂々の一品として登場することもある。例えるならば三国志の諸葛亮孔明のような野菜界の名参謀。
ときには台所に立つ世の女性達の涙腺を刺激し、涙をポロリと落とさせる「泣かせる俳優」という役回りもこなす。
まさに千変万化。サッカーならばフォワードからゴールキーパーまで全てのポジションをこなせるユーティリティ・プレーヤー。
当然ジンギスカンでも焼き野菜の中のタマネギの地位は確立されている。
そんなタマネギの種類の名前を屋号に付けたジンギスカン屋が赤坂にオープンした。『炭焼きジンギスカン専門店「カムイ」』。
赤丸ヂンギスをあとにした我々は、その足でその赤坂の「カムイ」に向かったのだった。
丸ノ内線だと「赤丸ヂンギス」のある四谷三丁目から赤坂見附までは目と鼻の先。駅を出た我々はいつものように住所を頼りに店を探した。あっちの通り、こっちの通りとさがしているうちにジンギスカンの匂いが漂ってくる。その匂いを頼りに進んで行くと、ありましたありました。赤坂見附の駅からだと一木通りの方に向かい二本目のみすじ通りに出たら右に曲がって数歩進んだ角。通りに面した全面がガラス戸で、中の様子がよく見える。外にまで漏れたジンギスカンの匂いで、この店がどういう店なのかがすぐに分かる。入り口には茶色い大きな暖簾がかかっている。
店内はコの字を描いた大きなカウンターと6人がけのテーブルが3つ(大人の男が6人座るとかなりきつそう)。カウンターは20人は座れるだろうか。従業員が8人ほど働いているが、そのほとんどが外国人に見える。
メニューを見る。
なんとここは昼の11:30〜明け方の5:00まで営業しているという働き者のジンギスカン屋だ。しかもサイドメニューのあまりない、ジンギスカン一本の直球勝負。
昼はジンギスカンセットが800円(ライス付きでお替わり自由)。夜はジンギスカンが750円(野菜付き)。野菜は自慢のタマネギと長ねぎが少し、それにゆでたじゃがいもがスライスされて出てきた。もやしがないのが残念だ。
さっそくビールとジンギスカンを注文する。最高顧問はオホーツクビールという北海道の地ビールを注文(1000円!)。
カウンターは奥が一段低くなっていて、そこに七輪が置いてある。低くなっているのでジンギスカン鍋を置くとちょうど食べやすい高さになる。鍋はスリットの入ったタイプで、天頂部にとんがりがある。どうやら脂が滑り落ちないようにするためのもののようだ。
ジンギスカンが運ばれてきた。肉はマトンにこだわっているそうで、厚さが5〜6ミリ。量は1人前120gほど。この店の特徴はタレが黒ダレと白ダレの2種類がある点。黒ダレは醤油ベースで色はベルのタレなどに比べるとかなり薄い。味もやや薄めであっさりとしている。
白ダレは初めて食べるタイプ。色は透明で、舐めてみると塩ラーメンの汁をもうちょっと濃くしたような感じ。あるいは焼き肉のネギ塩の味といったらいいだろうか。ジンギスカンをさっぱりと食べられる。最高顧問は気に入らないようだが、これはこれで新しいジンギスカンの形として有りではないかと思う。
自慢のタマネギは甘味が強く、焼き過ぎなければシャリシャリとして美味しい。塩ダレに合うような気がする。大振りな切り口も嬉しい。
マトンはそれほどの臭みはなく、あっさりと食べられる。追加の肉は600円。
隣の人がここの名物の『め丼』というのを頼んでいたので、どんなものか横目で覗かせてもらった。卵とタレで味付けされたご飯の入ったどんぶりに目玉焼きが乗っている。メニューを見ると並300円、大盛り400円、特盛500円となっている。どんな味か頼みたかったけれど、2軒目でジンギスカンを食べるのに精いっぱいだったので今回は諦めた。
それでもさらに肉を2人前追加で注文する。
カウンターの中の日本人のおじさんに話を聞くと、この店は飲食チェーンの経営で、社長が北海道は北見のカムイというタマネギにほれ込んで出した店だということだった。肉はオーストラリア産で今話題のカルニチンの含有量の多いマトンにこだわっている。自慢のタマネギとじゃがいもは毎日北海道から空輸されてくるそうだ。
店をホームページで紹介したいのだがと申し出たら、広報を通してくれということだったので、その場の空気としてステッカーを渡しづらくて置いてくるのは止めた。(どうもお役所的なところはステッカーを渡しづらいというか、まぁ、いいかという気にさせられてしまう)
でも、カウンター中心なのでひとりでフラリと訪れても気軽に入れそうで、値段も赤坂の駅のすぐそばにしてはリーズナブル。営業時間も長くやってくれていてありがたい。これで店長に味があって店としての顔が見えたらとてもいい店なんだが・・・、と最高顧問と話しながら満腹のお腹をさすりながら店を出たのであった。