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本場北海道への取材旅行〈ツキサップじんぎすかんクラブ〉2005年4月
大変なことになってしまった。
折りからのジンギスカンブームに熱せられたのか、最高顧問が自分の理想のジンギスカン屋をオープンすると言い始めたのだ。
いつかは今の仕事をリタイアして沖縄でジンギスカン屋をやりたい、とかねてから夢物語として話していた最高顧問だが、このブームで時は来たれりという気持ちになってしまったらしい。
確かに今いろいろなジンギスカン屋を取材しても、店はどこも客で満杯。まさにブームのまっただ中である。
しかしブームというのは必ず終焉が来るもので、このジンギスカンブームをかつての「もつ鍋」ブームと重ね合わせる人も多い。モツと羊では根本的に違うからあの時のように根こそぎ無くなってしまうことはないというのが東ジンの意見なのだが、それにしても飲食の素人が手を出して大丈夫なのだろうか。
最高顧問は今まで訪問した店で聞いたノウハウ、取材を受けたうえで培ってきた人脈などから勝算は大いにあり、というスタンスだが、会長はあくまでも趣味でやっているから楽しいんだという立場なので、その話を聞いて大いに悩む。
まず本場のジンギスカンを知らなければ話にならないから一度北海道に視察に行こう、という最高顧問。
ジンギスカンを愛する我々だが、北海道に行ったのは7年前。しかもその時はカニだのエビだの海産物ばかり食べてジンギスカンを食べていない。
「旅費は開店資金から出すからタダだよ。」
タダ・・・・なんという耳に心地よい響きを持った言葉だろう。
タタでもダメだしダダでも雰囲気が出ない。まさに絶妙な文字の組み合わせ。世界で一番短く美しい言葉ではないだろうか。
その言葉が大好きな会長はすぐさま「行く!」と返事をした。
4月某日、会長は仕事の都合で日月の二日間だが、最高顧問は金曜日から北海道に乗り込んで取材というスケジュール。
朝9時前の羽田発のJALで千歳空港に向かう。
今日はまず「ツキサップじんぎすかんクラブ」でお昼を食べ、夜は札幌ジンギスカン倶楽部神奈川支部長で東ジンの掲示板にもよく顔を出してくれるmin-minさんと札幌市内のジンギスカン屋に行く予定になっている。
千歳空港から直接ツキサップじんぎすかんクラブに行くにはJRで札幌駅まで来るよりも新札幌駅で地下鉄東西線に乗り換えて南郷13丁目という駅で降りた方がいいというので、最高顧問とはその南郷13丁目で待ち合わせをすることにした。
11時に待ち合わせたが、乗り継ぎがスムーズにいって10時半には駅に着いてしまった。いったん地上に出てみる。4月の北海道はまだまだ冬模様で寒い。通りを歩いている人もまだまだ冬本番の格好だ。駅のまわりに何もないようなのでまた地下に潜って改札で時間まで待つことにした。
しばらくすると最高顧問がやってきた。顔はつやつやとしているものの元気がない。聞けば昨日一昨日でジンギスカン屋を6軒ハシゴしたんだそうだ。顔のツヤがいいのは羊肉を食べ続けているためだが、着ているジャケットからはほのかにジンギスカンの香りが漂ってくる。この臭いにすでに辟易している感じ。
南郷13丁目の駅からツキサップじんぎすかんクラブまで歩くとかなりあるようなので、タクシーで向かうことにした。
10分ほどでツキサップじんぎすかんクラブに到着。
白樺が林立する広い牧場風の庭に平屋の大きな屋根に白い壁、そして大きな窓の木造の洋館が北海道らしい雰囲気を出している。今はまだ雪が残っているが、夏になって庭が緑一色に覆われたら絵はがきのような美しい光景だろう。
ここは東京のジンギスカンブームの火付け役を担った中目黒の某店がモデルとしているジンギスカンを出す老舗店だ。
店の中に入るとジンギスカン独特の香りが鼻腔に押し寄せてくる。時間は12時前ということで客足はまばら。
パンフレットによるとここは農業専門学校「八紘学園」内にあり、北海道ジンギスカン発祥の地とのこと。昭和28年、キャンパス内で「成吉思汗クラブ」を発足させたのがこの店の始まりだ。当時は非営利的会員組織で北海道の政財界の名士たちが会員だったそうだ。
メニューはジンギスカンセットのみで 野菜(もやし、ピーマン、ニンジン、玉ネギ)、肉(1人前220gとボリュームたっぷり)おにぎり2個にたくあんが付いて1,350円。
テーブルは白木で穴が空いていて、そこに七輪を入れるようになっている。
ビールとジンギスカンを注文して、さっそく店長にご挨拶した。
店長は我々のことをインターネットで知ってくれていたようで、この店の昔の資料などを見せてくれた。さらに、東ジンHPの記述の中で過ちのある部分も親切に指摘してくれたので、東京に戻ったらすぐに訂正することを約束する。
七輪と鍋が運ばれてきた。
会長が鍋を見て余計な一言を口走り店長の気分をちょっと害させてしまったみたいだが、そこは度量の広い店長の配慮でご愛嬌ということにしてくれたようでホッとする。
東京でもおなじみの、マトンをプレスして成型した肉がアルミのトレイに乗ってやってきた。厚さは約2ミリ。
タレはかなり濃いめの甘さを押さえたタイプ。
熱くなった鍋に肉を乗せる。パンフレットには「一枚づつ鍋にのせた肉のまわりが白っぽくなったらひっくり返し、軽く押さえてお召し上がりください。」と書いてあるのでそのようにして食べる。
マトンだけに羊の香りが強く美味い。肉をミルフィーユ状に重ねて成型しているので柔らかい。
初めての北海道ジンギスカンに相応しいその味と雰囲気に、ビールもすすむ。
ここのセットはお肉たっぷりだから女性客なら1人前で十分だろう。最高顧問は昨日一昨日のジンギスカン攻めにあまり箸がすすまないようだが、会長はこれが北海道初ジンギスカンだけについつい食べ過ぎ気味になってしまったが、まだこの後の予定もあるので肉1人前の追加で我慢した。
12時を過ぎた辺りから家族連れ、友達同志という感じのお客さんが続々と入ってきて、広い店内があっという間に7分くらいの入りになっていた。しゃべる言葉を聞くとみんな地元の人たちという感じ。
ジンギスカンは札幌では店で食べるというよりも家で食べる物だ、ということを地元の友人に聞いたことがある。だからジンギスカン専門店は住宅街にはほとんどなくて、焼き肉屋のメニューの中にジンギスカンもあるという感じといっていた。
しかしこの店は歴史が有るだけに地元民に愛されて、しっかりと根を下ろしているということがよくわかる。
店長に話をうかがったが、有名な店だけに夏は観光客も多く、テラスで緑に囲まれながら食べられるようになっているとのこと。なんと最大600人は収容できるそうだ。(600人が一斉にジンギスカンを焼き始める光景は壮観だろうな。)
デザートはソフトクリームが定番。スジャータのソフトクリームを使っていて味はバニラ、チョコ、杏仁豆腐の3種類がある。珍しいので杏仁豆腐を注文した。これがさっぱりしてジンギスカンのあとの口をさわやかにしてくれて絶妙であった。
北海道のジンギスカン専門店初体験の会長は大満足で店をあとにした。
「だるま」の場所は最高顧問が把握しているというので、会長は後に続く。
まだ外は明るいというのにホテルを出たとたんにソープランドの呼び込みのお兄ちゃんたちの勧誘がすごい。その勧誘のあいだを抜けて、目指すは憧れの「だるま」。
ところが場所を把握しているはずの最高顧問が道に迷ってしまった。しばらくウロウロするもののよく分からない。すると最高顧問はさっきまで避けるようにしていた呼び込みのお兄ちゃんのところにツカツカと歩み寄り道を聞き始めた。お兄ちゃんは親切に道順を教えてくれた。
「帰りには寄ってくださいよ。」というお兄ちゃんに礼をいって足早に「だるま」に向かった。
「だるま」はススキノの駅前通りという大きな通りから一本入った細い路地にあった。ネオン輝く通りの中にあって、この細い路地はちょっと分かりづらい。
表には達磨大師を描いた白い看板に「だるま」と白文字で書かれた紺の暖簾がかかっている。道路に出ている赤い看板には「昭和29年創業・ススキノ名物」と書いてある。昭和29年ということは今年(平成17年)で満51歳。昼間行った「ツキサップじんぎすかんクラブ」は昭和28年創業だが、その頃は会員制で店ではなかったので、店としては老舗中の老舗ということになる。
4時半をちょっと過ぎた時間なのに、店の中にはもう煙が立ちこめている。
店内は馬蹄形の形をしたカウンターのみで12〜3人で満員になってしまう。そのカウンターの中で3人のおばちゃんが忙しそうに働いている。
カウンターには2人に一つの割合で穴が空いていて、そこに七輪を入れるようになっている。
我々が着席するように指示されたのは、ちょうどカウンターの真ん中あたり。12人のお客さんを3人のおばちゃんで対応するということは、1人で4人を担当するということになる。我々を担当してくれるおばちゃんはおばちゃん歴がけっこう長い、おばちゃんの大ベテランといえそうなおばちゃん。右隣の4人を担当するおばちゃんは、まだおばちゃんの初心者といった風情でちょっと水商売もかじってたかもと思わせる、なかなかに色気のあるおばちゃんだ。
あと2つ席がずれていれば・・・・・・自分たちの不運を心で嘆く最高顧問と会長であった。
メニューはジンギスカン1人前700円(野菜は玉ネギと長ねぎ)、漬物100円、ご飯200円、キムチ、チャンジャ300円、ビールは中瓶のみで600円(いずれも+消費税)となっている。肉はラムではなくマトン。厚さは5ミリくらいで赤身の多いロース肉を使っている。我々の隣に座っている人は1人で食べに来た地元のサラリーマンらしき人で、その隣の観光客らしいカップルに「だるま」の食べ方を親切にレクチャーしている。会長は耳をダンボにして聞き耳を立てる。
常連さんのアドバイスは
●焼き方は人それぞれの好みがあるので好きなように焼けばいいが、焼き過ぎると固くなるし肉汁も出てしまうので、できれば表面が焼けたミディアムレアが望ましい。
●タレは一味とニンニクを入れるとより美味しくなる。
●焼けたネギを一個とっておく。食べ終わったら最後にタレにそのネギを入れ、番茶を注いでもらってスープ代わりにして飲む。
●このスープをご飯にかけてお茶漬け風にして食べるのもまた美味い。
タレに番茶を入れてスープ代わりにして飲む方法は、東京でも何軒かやる店はあるが、ネギを入れるというのは知らなかった。多いに参考にさせてもらう。
ビールとジンギスカンが目の前に来た。我々を「だるま」初心者と看破したおばちゃんは、鍋が熱くなった頃を見計らってあぶら(羊脂)を塗り、野菜を敷き詰めてくれる。我々はおとなしくおばちゃんの手さばきをじっと見ている。
手早くセッティングすると「あとはどうぞ」といって他のお客さんの世話に行ってしまった。
瓶ビールで乾杯。考えてみれば、最近瓶ビールを飲む機会が無くなってしまっていた。ほとんどの店が生ビールであり、我々もついついそれに慣れてしまっている。その昔友人たち6〜7人で居酒屋のビールを全て飲み干したという逸話を持つ最高顧問は、懐かしそうにコップを傾ける。
さっそく焼けた肉をタレにつけて食べる。
タレはしっかりした濃いめの味で、マトンによくあう。さすがに50年を超える門外不出のタレは(このタレのレシピに数多く引き合いが来ているが、全て断っているらしい)伝統の重みがあり、癖になりそう。美味い!
タレの加減が絶妙で、ビールにもご飯にもよくあう。
肉は1人前130gあるのだが、あっという間に食べてしまい、追加を注文する。
気がつけば外には列が並んでいる。店内でのおばちゃんの接客は、困っている客がいればすぐにアドバイスし、慣れてるお客さんには付かず離れず、常連さんが話しかければ気さくに答えるというように各お客さんとの距離感が絶妙だ。
特に我々担当のおばちゃんはベテランらしく、その辺の呼吸が絶妙でとても居心地がいい。最初に隣のおばちゃんに浮気心を持ったことを心の中で詫びた。
この店でお腹いっぱいにしたいところだが、min-minさんとの待ち合わせもあるので我慢。それでも会長は常連さんが言っていたお茶漬けが食べたくてご飯と番茶を頼んだ。当然焼けたネギを一つ確保してある。
脂の浮いたタレをご飯にザバッとかけ、そのご飯に直接お茶を入れてもらう。ネギをお茶でよぅくほぐしてサラサラとかっこむ。
脂っぽいんじゃないかと思っていたのだが、ネギの効能か番茶の濃さがいいのか、ギトギト感はほとんど感じない。とても美味しい。出来ればネギをもう2〜3切れとっておけば良かったと後悔するほどネギがいい味を出していた。
お勘定を済ませ大満足で外に出ると、あたりはすっかり暗くなり冷たい風が頬をなでる。その寒さの中をじっと耐えるように並ぶ長蛇の列。この店は平日は夜中の3時まで、金土は5時までやっていて、その間列の途切れることがないという噂を聞いていたが、肉、タレ、店内の雰囲気の三拍子が揃っていれば当然と納得した。
本場北海道への取材旅行〈モンゴル一丁目〉2005年4月
すすきのの街に出て「だるま」について最高顧問と感想を述べあっていると、大きな体格をしたmin-minさんが「お久しぶりです」と声をかけてきた。
このmin-minさんは北海道出身の羊好きで、仕事でイランに行った際も羊を食べまくったという筋金入り。東京ジンギス倶楽部の掲示板によく書き込みをしてくれるほか、「札幌ジンギスカンクラブ」(通称札ジン)という札幌のジンギスカン好きが集うクラブの神奈川支部長をしているジンギスカン好きである。
住まいは神奈川だけれど、仕事の関係で長期に渡って北海道に来ていて、今回我々が北海道視察旅行をするということを聞きつけて札幌の案内を買って出てくれたのである。
min-minさんは「だるま」でジンギスカンを食べたばっかりの我々に気を使ってくれて、近所のカフェでちょっと小休止。
そのあいだに札幌のジンギスカン事情をレクチャーしていただいた。
最近は札幌も昔ながらのジンギスカン屋の他に東京スタイルというか、女の子同士やデートにも使えるちょっとニューウェーブ風のジンギスカン屋がちらほら出てきたのだとか。
「さて、どこに行きましょうか」というmin-minさんの問いに、「つきさっぷジンギスカンクラブ」、「だるま」と昔ながらのジンギスカン屋を回ってきた我々は、札幌の新しい波も体験してみたいとリクエスト。
min-minさんが選んでくれた店は地下鉄南北線すすきの駅から徒歩10分弱の「生肉ジンギスカン専門店 モンゴル一丁目」。
午後7時、お腹もこなれてきた我々はその店に向かった。
雑居ビルの一階にあるその店は入口に白い暖簾に墨文字も鮮やかに店名がどーんと書いてある。店内は半個室形式になっていて4人掛けの部屋が5つに7〜8人部屋が2つ。店内はやや暗めの照明で、落ち着いてお洒落な雰囲気を演出している。
七輪はテーブルに直接置くので非常に背が低くなっている。
メニューは生肉ジンギスカン(マトン)700円(初回玉ネギと長ねぎ付き)、ラムタン塩800円(今は750円)、ラムロース850円(今はサフォーク880円)、上生塩ホルモン(今はないかも)、あがりラーメン210円(ラーメンを小鍋で茹でて、タレで食べる)、他に追加野菜(もやし、アスパラなど)となっている。
我々は基本の生肉ジンギスカンとラムタン塩とラムロースを注文し、ビールで乾杯。
やってきた鍋は穴あきタイプで脂は豚の脂を使っているとのこと。
肉は道内産のもので1人前130gとボリュームたっぷり。厚さは5〜6ミリという厚めのサイズ。
タレは北海道にしてはやや薄味のあっさりさっぱりタイプ。北海道産の肉が脂があっさりしているので、濃い味好きの人にはちょっと物足りないかも。
塩ホルモンというものを初めて食べたがこれが美味しかった。塩味なのでサッパリしているが、噛むほどに脂がじわっとにじみ出てきて美味さがつきない。歯ごたえも適度の弾力があり歯に心地いい。羊のホルモンだと思ったのだが、お店の人に聞くと豚の腸だということでそこはちょっとガッカリ。
締めの「あがりラーメン」も食べてみたかったのだが、さすがにそこまでお腹に入らなかったので泣く泣く断念した。
ジンギスカンの話し、羊の話、min-minさんの青春時代の北海道のジンギスカン事情などを楽しく拝聴し、気がつけば時間は9時をまわっている。実は我々はこのあと札幌の友人宅に招待されているのだった。
min-minさんにお礼を言って別れ、タクシーに乗って東区の友人宅へ。
このジンギス日記に以前書いた「ジンギスカン・ジャーキー」を持ってきてくれた、東ジン札幌支部長のマナブ家族と共に待ちかまえていた友人は、どっさりの新鮮な甘エビやカニなどのご馳走を用意して我々を歓待してくれた。
不思議なものでジンギスカン屋のはしごでもう満腹と思っていたのだが、刺し身などはまたどんどん食べられてしまうのですね。考えてみれば本日初めてのジンギスカン以外の食べ物だ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ気がつけば12時を過ぎている。
タクシーを呼んでもらい名残惜しく別れを告げてホテルに帰った。
まだまだホテルのまわりはピンクのネオンが瞬いている。
食べ疲れてヘロヘロになった会長を尻目に、最高顧問が突然「ラーメンが食べに行こうよ!!」と言い出した。2日早く札幌に来ている最高顧問は、この3日間ジンギスカンしか食べていないので、麺類がどうしても食べたいと言って聞かない。そんな元気のない会長が「1人で行ってきなよ。」というと最高顧問は「分かった、行ってくる!」とラーメンを食べに行くには不自然なほどいそいそとピンクのネオンの中に消えていったのであった。